第8話「やわらかな芝生」

文:Ricona   ナレーター: 佐々木健

ふと気がつくと

そこはとても広くなっていた

今までキツくてキツくて仕方なかったはずなのに

求めていた以上に広く広くなっていた

立っていた足の感覚が戻ると

眼からは大粒の涙が溢れていた

そして私は

きっと知っているであろう

カーテン越しの向こうに見える影に

ただひたすらに頭を下げていた

何か…

置き忘れてきているような感覚とともに外へ出ると

そこは眩しいほどに晴れていた

世界が一瞬で変わったのかと思うほど

何もかもが不思議に見えた

空を見上げた

雲が浮かんでいた

再び見上げるとそこにはもう

その雲の形はなくなっていた

もしかしたら

必死に求めることなんて

しなくてよかったのかもしれない

ただ深呼吸をして

時に身を任せればいいんだ

それに気がついたあの日の朝は

いまでもずっとわすれない

だから私は今日もこうして生きている

広くなった空き地が

やわらかな芝生でいっぱいになるのを待ちながら

第7話「絵本・星にねがいを」

「星にねがいを」

文:けいちん

絵:いずみ

★あらすじ★

ある日、白熊がお話ができたと、喜んで僕のところにやってきた。星に願いを・・・を聴きながら願いごとをすると・・・。

それは、当たり前のようで、つい忘れてしまいがちな優しさや温かさを想いださせてくれる白熊らしいお話でした。

絵本は、YOMO オリジナル絵本通販サイトで購入いただけます

https://www.yomo-ehon.com/products/28

この絵本は、以前、銀河鉄道の夜のオーディオブックを作った時に、ハープを演奏してくれたいずみさんが、役者の友人のけいちんさんの文に絵をつけて完成した物語です。STORYTELLER BOOKを始めて、誰かお話書いてくれないかなぁとの書き込みに、いずみさんが、もし良かったらと反応してくださり、今回読ませていただくことになりました。けいちんさん、いずみさん、素敵なお話を読ませていただきありがとうございます。

白熊のキャラどうしようかなぁと悩んでストレートに読んで見たら、もう少し壊れている感じ?という感想で、なぜかミュージカル調の仕上がりになりました。星に願いを(When you wish upon a time)は著作権が延長になり存続していますので歌うわけには行かず、自分でメロディを作って歌って見ました。この物語には音楽が必要かなって。

リンクを貼った絵本サイトから、絵本の試し読みもできますので良かったら訪れて見てください。

ナレーター:佐々木健

第6話「神様はスローモーション」

時間早送り研究所の博士は長年の研究をついに完成させました。

「博士おめでとうございます。」

「ああ、研究室でブンブン飛んでいたハチを捕まえたくて始めた研究が、まさかの大理論の発見につながるとはな。ハチの世界では、我々の動きは超スローモーションで見えている。小さいものは大きいものよりも時間が早く進む。時間早送り理論じゃ。」

「博士、それでこの巨大な装置はいったい?」

「うむ、助手君、最近起きている不気味な現象は知っているな?」

「はい。大地を裂くかのような大きくて低い、ごーーーーーーーーって言う音が、世界中に鳴り響いています。まるで地球が悲鳴をあげているような」

「そうじゃ、それをこの装置を使って解決するのじゃ」

「と言うと?」

「多分この音は何らかのメッセージじゃ。ワシの解析ではこうなる。

オ……、オ……、イ……、キ……、コ……

「これが何を意味するかまだわからんが、地球からの、いや神様からのメッセージかもしれん。助手君、もし未来に行ければ、解決できると思わんか?」

「未来に行けるんですか?」

「残念ながら、未来に行くことはできんが、この装置の中で時間を早送りすれば未来が早く来る。我々よりも進んだ文明が生まれるはずじゃ。小さいものは大きいものよりも時間が早く進む。我々を小さくすることはできない。そこで、小さな動物に我々の知能を与え、この装置の中の時間を早送りすれば良いのだ。」

「何だかよくわかりませんが、すごそうです」

「まずはネズミを使ってみよう」

博士の作った巨大な装置の中で、知能を与えられたネズミ達は、すごいスピードで進化を始めます。

「見ろ、すごい勢いで世界が進化していくぞ。二本足で立ったぞ、畑を耕しはじめた。村ができたぞ。村と村が争いながら大きくなっていく。国ができた。」

博士の巨大装置の中で、ネズミ文明はどんどん進化して行きます。

「文字もでき、電気も発明し出したぞ。コンピュータの登場だ。インターネットのようなものができてきたな。さぁ、ここから我々がまだ目にしていない未来の世界が展開するぞ。おや、君、見たまえ。このネズミの科学者と助手、私たちにそっくりだぞ。」

博士と助手は、ネズミ文明の中で自分たちとそっくりな二匹を見つけました。

「驚いた、時間早送り装置を使って未来を見る実験を始めたぞ。これは面白い。ちょっと声をかけてみよう。おーい、聞こえるか?」

———–

ゴーーーーーーーー

オーー、オーー、イーー、キーー、コーー

ネズミの博士と助手が話しています。

「博士、また不気味な音が」

「うむ。神様からのメッセージかもしれん。それをこの装置を使って解明するのじゃ」

ナレーター&文 佐々木健

第5話「みどりの恐竜」

私は夢の中で、私ではない誰かになっていました。
四方を高い壁に囲まれた広い空間にいて、カウボーイハットを被り、ガチャガチャ鳴る靴も履いています。

私は靴を磨きながら、満足そうにこの世界を見ています。

磨き終わると、仲間たちに声をかけ、あたりを見回っています。
私はここではリーダーのようです。

ん?

私は何か落ちているものに気がつき、それを拾いあげ、見つめました。

驚いたことに、その手の中にあったのは、私が小さい頃に大事にしていた恐竜のぬいぐるみでした。
緑色でお腹が白い、そのぬいぐるみを私はいつも持ち歩いていました。

寝るときも、ご飯を食べるときも、お風呂に入るときも、いつも一緒でした。

目や口や、背中にあるトゲトゲを、ガジガジ噛んで、いくつかはもう取れそうになっているところもそのまんまで、確かに私のぬいぐるみでした。

不思議と笑みがこぼれ、懐かしさと嬉しさと、今までなんで忘れていたんだろうという思いが心の中に浮かびました。

私は、そのぬいぐるみを優しく優しく撫でていました。

その時、みどりの恐竜がが笑ったような気がしたところで、
夢は唐突に終わりました。

起きてからもしばらく、私は夢のことを考えていました。
大好きな恐竜のぬいぐるみを噛んでいた自分。

傷つけたり、壊したかったわけじゃないん・・だよな・・・?
でも噛まずにはいられないほど・・・。
寂しかったのかな。

あの夢のカウボーイ、どこかで見たことがあると思ったら、アイツか。

ナレーター&文:佐々木健

第4話「銀河鉄道の夜、サソリの幸い」

“みんなの幸(さいわい)のためならば、

僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない” 

星祭の夜、いつのまにかジョバンニは

天の川を走る小さな列車に乗っていた。

前の席には幼なじみのカムパネルラが座っていて

黒曜石でできた地図を眺めている

今、少年たちの星をめぐる物語が 始まる

賢治は、この物語をどんな思いで書いたのだろう

28歳の若者は、37歳で亡くなるまでこの物語を何度も書き直し

推敲を重ねていた

物語の中で、サソリは語る

“ああ、私は今まで いくつのもの命を奪ったかわからない、その私が今度いたちに獲られようとした時はあんなに一生懸命に逃げて、井戸で溺れて行くだけ。どうして私の体をいたちにやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神様。この次には、まことのみんなの幸のために私のからだをおつかい下さい。”

みんなの幸い 本当の幸いを ジョバンニは見つけられただろうか

賢治の思いを乗せて汽車は行く

銀河鉄道の夜

Nokt de la Galaksia Fervojo

ナレーター&文 佐々木健

※今回はビデオ撮影して1発録りに挑戦しました(YouTubeでご覧いただけます)
※サソリのセリフは一部読みやすく変更しています

第3話「『しるこ』 ニューヨーク、パリへ」

しるこ 芥川龍之介

久保田万太郎君が「しるこ」のことを書かいているのを見、僕もまた「しるこ」のことを書いて見たい欲望を感じた。関東大震災以来の東京は梅園(うめぞの)や松村(まつむら)以外には「しるこ」屋らしい「しるこ」屋は跡を絶ってしまった。その代わりにどこもカフェだらけである。僕らはもう広小路(ひろこうじ)の「常盤(ときわ)」にあの椀になみなみと盛った「おきな」を味わうことは出来ない。これは僕ら下戸仲間の為には少なからぬ損失である。のみならず僕らの東京の為にもやはり少なからぬ損失である。

 それも「常盤」の「しるこ」に匹敵するほどの珈琲を飲ませるカフェでもあれば、まだ僕らは幸せであろう。が、こういう珈琲を飲むことも現在ではちょっと不可能である。僕はその為にも「しるこ」屋のないことを情けないことの一つに数えざるを得ない。

「しるこ」は西洋料理や支那料理と一緒に東京の「しるこ」を第一としている。(あるいは「していた」と言わなければならぬ。)しかもまだ西洋人たちは「しるこ」の味を知っていない。もし一度知ったとすれば、「しるこ」もまたあるいは麻雀のように世界を風靡しないとも限らないのである。帝国ホテルや精養軒のマネジャー諸君は何かの機会に西洋人たちにも一椀の「しるこ」をすすめて見るが良い。彼らは天ぷらを愛するように「しるこ」をも必ず――愛するかどうかは多少の疑問はあるにもせよ、とにかく一応はすすめて見る価値のあることだけは確かであろう。

 僕は今もペンを持ったまま、はるかニューヨークのあるクラブに西洋人の男女が7-8人、一椀の「しるこ」をすすりながら、チャーリー・チャップリンの離婚問題か何かを話している光景を想像している。それからまたパリのあるカフェにやはり西洋人の画家が一人、一椀の「しるこ」をすすりながら、――こんな想像をすることは風流人の仕事に相違ない。しかしあのたくましいイタリア王国首相ムッソリーニも一椀の「しるこ」をすすりながら、天下の大勢を考えているのはとにかく想像するだけでも愉快であろう。(終)

※聴きやすくするために、一部修正を加えています。震災は関東大震災に、紅毛人は西洋人、閑人は風流人に、ムッソリーニは肩書きを加えて読み替えました。

文豪・芥川龍之介が1927年(昭和2年)に書いた「しるこ」というエッセイ。お菓子会社の広告として依頼され書かれた文章とのこと。そこに3軒のしるこ屋が登場するのだが、現在まで残っているのは1軒のみ。それが浅草に本店のある「梅園(うめぞの)」である。今では各デパートなどにも出店しているので、お口にする機会もあるであろう。ドラ焼は大きくて美味い。芥川の友人の久保田は、しるこを若い人たちが飲むと言う表現がおかしくてエッセイを書いた。曰く「汁粉は「食う」あるいは「食べる」もので、決して飲むものではない」と。そこからこの物語は始まる。今回、読み手はなぜか喜劇として読んだようです。

芥川龍之介「しるこ」 ナレーター&文 佐々木健

第2話「二人の依頼人」

ある日、私たちの部屋に男女が訪ねてきた。

「素敵なお部屋ですね。この近くに私の先生が住んでいて、この辺りは良く来るんです」

私が友人から習った観察を行うまでもなく、男は神経衰弱を患っているようで元気がない。

「これ私が描いた絵本ですの、よかったら読んでください」

女性のくれた小さな絵本にはかわいい動物たちの日常が描かれており、その絵のタッチと文章の構成力に、わたしはとても惹かれた事を覚えている。

「さぁ、おかけください」

友人はいつもより機嫌が良いようで、2人にソファを進めながら、両手の指先を合わせ、男が何も語らぬうちに話しかける。

「なるほど、日本の方ですね。学校の先生をしている。そしてロンドンにはシェイクスピアの研究をされにきた。ご自身も文筆家でもある。残念ながら、この国の水は合わないようですね。」

男は驚きの表情を見せる。

「その通りです。教師をしています金之助です。日本人です。」

「あなたは」と今度は女に目を向ける。

「長旅ご苦労さまでした。湖のそばにお住まいで、今日は長い時間、馬車と汽車に揺られて来た。そして、絶対に成し遂げなければならない目標がおありのようだ」

「はい、その通りです!助けて欲しいんです。あなたなら絶対に取れると思うんです。」

「取る?と言うと?」

「どうしても取りたい、取らなければいけないウサギがあるんです」

「よろしい。では早速出かけるとしよう。行こうドクター」

私だけが事態を飲み込めぬまま、我々4人を乗せた馬車は走り出す。

ナレーター&文:佐々木健

第1話「魔法のランプに願いをこめて」

私たち夫婦が「コアラの街」と呼ぶその町にあるイタリアンレストランでは、魔法のランプを注文できる。

「いらっしゃいませ」

優しい笑みを浮かべた目鼻立ちの整った好青年が出迎えてくれた。

「予約したものです。魔法のランプをお願いします」

それはジャムの瓶より少し大きな、入口が小さく底が丸いガラスの瓶で、小皿で蓋をされて出て来る。瓶の中では白い煙が充満し、うごめき、時を待っている

「おまたせしました。豚肉の薫製 特製スモークポーク 魔法のランプです」

こんなに美味しいものはここでしか食べられない。肉は柔らかくスモークされ、肉そのものが持つ旨味を最大に引き出した濃密な味わいに心が躍る。

この店では客が蓋を開け、立ちのぼる煙に願いをかける

数年前、この店に訪れた僕は、瓶の蓋を開けて、煙が立ちのぼる様子に目を輝かせる彼女に言ったんだ

「僕には、金も地位も名誉もないけど、ジーニーのように魔法のランプから出て、君を笑わせる。君を守りたいんだ」

ランプに閉じ込められた魔人は、燻製のようにじっと閉じ込められながら熟成し、白い煙とともに僕の願いを叶えてくれた。

「ねぇ君、今日はどんな願いにする?」

2020.8.6 文: 佐々木健(初稿)