第5話「みどりの恐竜」

私は夢の中で、私ではない誰かになっていました。
四方を高い壁に囲まれた広い空間にいて、カウボーイハットを被り、ガチャガチャ鳴る靴も履いています。

私は靴を磨きながら、満足そうにこの世界を見ています。

磨き終わると、仲間たちに声をかけ、あたりを見回っています。
私はここではリーダーのようです。

ん?

私は何か落ちているものに気がつき、それを拾いあげ、見つめました。

驚いたことに、その手の中にあったのは、私が小さい頃に大事にしていた恐竜のぬいぐるみでした。
緑色でお腹が白い、そのぬいぐるみを私はいつも持ち歩いていました。

寝るときも、ご飯を食べるときも、お風呂に入るときも、いつも一緒でした。

目や口や、背中にあるトゲトゲを、ガジガジ噛んで、いくつかはもう取れそうになっているところもそのまんまで、確かに私のぬいぐるみでした。

不思議と笑みがこぼれ、懐かしさと嬉しさと、今までなんで忘れていたんだろうという思いが心の中に浮かびました。

私は、そのぬいぐるみを優しく優しく撫でていました。

その時、みどりの恐竜がが笑ったような気がしたところで、
夢は唐突に終わりました。

起きてからもしばらく、私は夢のことを考えていました。
大好きな恐竜のぬいぐるみを噛んでいた自分。

傷つけたり、壊したかったわけじゃないん・・だよな・・・?
でも噛まずにはいられないほど・・・。
寂しかったのかな。

あの夢のカウボーイ、どこかで見たことがあると思ったら、アイツか。

ナレーター&文:佐々木健