部屋を出たぼくは、幼稚な自己陶酔にひたっていた。オレの出番だ。
明け方には、飛行機に客人となるアフリカへの荷物と郵便物を乗せて飛ぶ。責任ある操縦士として。
だが同時に恐怖も感じていた。本当に大丈夫だろうか?スペインには緊急着陸できる場所が少なく、万が一、エンジンに問題が起こったらどうする?紙の地図から回答を得ようとしたが、何も見つけることができず、陶酔と恐怖が入り混じった状態で、仲間のアンリ・ギヨメの部屋に向かった。
本番前の夜、彼こそが希望だった。すでに、このルートの飛行経験があるギヨメは、スペイン上空の秘密の鍵を持っているに違いない。ぼくにはその鍵が必要なんだ。
部屋に入ると、微笑む彼が待っていた。
「聞いたぜ、やったな」
彼は戸棚からポルトガル産の赤ワインとグラスを取ると、満面の笑みで戻ってきた。
「乾杯しよう。大丈夫、うまくいく。」
彼は眩しいほど自信に満ちたオーラに包まれていた。
のちにアンデス山脈越えと南大西洋を郵便飛行で横断する記録の2つを達成することになるギヨメは、その数年前のあの晩、ランプの下で、Tシャツ姿で腕を組み、最高に優しい笑みでぼくに教えてくれた。
「嵐や濃霧、吹雪が行く手を阻むことがある。そんな時はこう考えるんだ。他の奴らも同じ状況を経験したはずだと。他のヤツにできたことが、オレにできないわけがないってな。」
ぼくは地図を広げて、飛行コースを一緒に確認して欲しいと頼んだ。ランプの灯りの元、ギヨメと肩を寄せ合った時、まるで学生時代に戻ったかのようにぼくはほっとした。
Terre des Hommes – 地球の詩 –
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
翻訳:佐々木健 with ChatGPT
イラスト:@kokorojin x Midjourney