第1話「魔法のランプに願いをこめて」

私たち夫婦が「コアラの街」と呼ぶその町にあるイタリアンレストランでは、魔法のランプを注文できる。

「いらっしゃいませ」

優しい笑みを浮かべた目鼻立ちの整った好青年が出迎えてくれた。

「予約したものです。魔法のランプをお願いします」

それはジャムの瓶より少し大きな、入口が小さく底が丸いガラスの瓶で、小皿で蓋をされて出て来る。瓶の中では白い煙が充満し、うごめき、時を待っている

「おまたせしました。豚肉の薫製 特製スモークポーク 魔法のランプです」

こんなに美味しいものはここでしか食べられない。肉は柔らかくスモークされ、肉そのものが持つ旨味を最大に引き出した濃密な味わいに心が躍る。

この店では客が蓋を開け、立ちのぼる煙に願いをかける

数年前、この店に訪れた僕は、瓶の蓋を開けて、煙が立ちのぼる様子に目を輝かせる彼女に言ったんだ

「僕には、金も地位も名誉もないけど、ジーニーのように魔法のランプから出て、君を笑わせる。君を守りたいんだ」

ランプに閉じ込められた魔人は、燻製のようにじっと閉じ込められながら熟成し、白い煙とともに僕の願いを叶えてくれた。

「ねぇ君、今日はどんな願いにする?」

2020.8.6 文: 佐々木健(初稿)