第8話「やわらかな芝生」

文:Ricona   ナレーター: 佐々木健

ふと気がつくと

そこはとても広くなっていた

今までキツくてキツくて仕方なかったはずなのに

求めていた以上に広く広くなっていた

立っていた足の感覚が戻ると

眼からは大粒の涙が溢れていた

そして私は

きっと知っているであろう

カーテン越しの向こうに見える影に

ただひたすらに頭を下げていた

何か…

置き忘れてきているような感覚とともに外へ出ると

そこは眩しいほどに晴れていた

世界が一瞬で変わったのかと思うほど

何もかもが不思議に見えた

空を見上げた

雲が浮かんでいた

再び見上げるとそこにはもう

その雲の形はなくなっていた

もしかしたら

必死に求めることなんて

しなくてよかったのかもしれない

ただ深呼吸をして

時に身を任せればいいんだ

それに気がついたあの日の朝は

いまでもずっとわすれない

だから私は今日もこうして生きている

広くなった空き地が

やわらかな芝生でいっぱいになるのを待ちながら

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